井戸まさえ国対副委員長(衆議院議員/東京4区)は16日、国民民主党を代表し、衆議院本会議で議題となった刑事訴訟法改正案に対する質疑を行った。質疑の全文は以下のとおり。
刑事訴訟法の一部を改正する法律案 反対討論
令和8年6月16日
井戸まさえ
国民民主党・無所属クラブの井戸まさえです。
私は、会派を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、委員会修正を含め、反対の立場から討論を行います。
「再審法はただ改まればいいのではない。今まさに苦しんでいる人が救われてなんぼです。」
これは、福井女子中学生殺害事件で再審無罪となった前川彰司さんの言葉です。
この言葉を基準に問うならば、本法律案は、残念ながら「今まさに苦しんでいる人」を救うに足るものではありません。
今回の再審制度の見直しは、本来、過去への深い反省の上に始まったはずです。
袴田巖さんは、逮捕から再審無罪の確定まで、実に五十八年もの歳月を奪われました。再審開始の決定が出てから無罪が確定するまでだけでも、十年を要しました。人生の大半を死刑囚として過ごすことを強いられた、その歳月の重みこそが、本改正の原点です。
二度と同じ過ちを繰り返さない。
冤罪に苦しむ人を一日も早く救う。
そのためにこそ、再審法の改正が求められてきたのです。
現行の刑事訴訟法において、再審に関する規定はわずか十九条にすぎません。手続の多くは裁判所の裁量と運用に委ねられ、どの裁判体に当たるかによって結果が左右される、いわゆる「再審格差」が長年指摘されてきました。
我が党は、この国会を、七十八年余り手つかずであった再審のルールを改める歴史的な機会とすべく、一貫して建設的な議論に臨んでまいりました。
再審手続の法制化、そして検察官抗告を制限する方向性は、確かに一歩であります。しかし、その一歩は、冤罪に苦しむ方々を、迅速に、そして確実に救済し得る水準には達しておりません。
だからこそ、私たちは本法律案に賛成することはできません。
以下、反対の理由を申し述べます。
第一の、そして最大の理由は、裁判所の職権による証拠開示の制度化が見送られたことです。
これまでの再審無罪事件の多くは、検察官が保有していた証拠が開示されたことによって、大きく動いてまいりました。
福井事件では、裁判所が証拠開示に向けた強い姿勢を示したことを契機に、二百八十七点もの新証拠が提出されました。その中に、無罪を決定づける重要な証拠が含まれていたのです。
裁判所が主体的に動けば、証拠は出てくる。
そして、その証拠の中にこそ、無実を明らかにする手がかりが眠っているのです。
しかし、政府案の証拠提出命令は、再審請求の理由に関連すると認められる証拠に限定されています。請求人は、そもそもどのような証拠が存在するのかを知らされないまま、その証拠の関連性を主張しなければなりません。
これは、あまりにも高い壁です。
再審請求者にとって必要なのは、存在を知らない証拠について関連性を説明せよという制度ではありません。原判決の証明力を判断するために重要な証拠について、裁判所が職権で、幅広く、直接開示を命じることができる制度です。
冤罪救済の鍵は、証拠開示にあります。
この核心部分が制度化されなかったことは、本法律案の重大な欠陥です。
第二の理由は、検察官抗告の制限が、実効性を欠いていることです。
本法律案は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを原則禁止するとしています。しかし、その例外を基礎づける「十分な根拠」の有無を判断するのは、ほかならぬ検察官自身です。
当事者の一方である検察官が、自らの不服申立ての可否を自ら判断する。これでは、原則と例外が容易に逆転しかねません。審議を通じて、この制度上の抜け穴が明らかになりました。
また、十分な根拠を欠く検察官抗告によって再審開始や無罪判決の確定が遅れ、最終的に国家賠償責任が認められたとしても、その負担を負うのは国、すなわち国民です。抗告を行った検察庁や検察官自身に、反省や再発防止を促す仕組みにはなっておりません。
これでは、不当な抗告を抑止することはできません。
袴田事件では、検察官の不服申立てによって審理が高裁、最高裁を往復し、無罪確定までに十年が費やされました。
大崎事件の原口アヤ子さんは、地裁、高裁で三度にわたり再審開始の決定を得ながら、そのたびに検察官の不服申立てを受けた上級審で取り消されました。昨日、九十九歳を迎えられた今もなお、再審を待ち続けておられます。
救済を待つ請求人にとって、一年、一月の遅れは、命に関わります。
検察官抗告の制限を真に実効あるものにしなければ、この改正の意義そのものが損なわれてしまいます。
第三の理由は、新たに設けられた開示証拠の目的外使用禁止規定です。
被害者の名誉やプライバシーが保護されるべきことは当然です。証拠が無制限に拡散されたり、再審とは無関係に利用されたりすることを防ぐ必要があることも理解します。
しかし、問題は、その線引きがあまりにも不明確であり、正当な弁護活動、支援活動、報道による検証まで萎縮させるおそれがあることです。
袴田巖さんの姉、ひで子さんは、「支援者も見られない、マスコミも見られない。これでは助けられる人も助けられない」と、涙ながらに訴えられました。
冤罪を明るみに出してきたのは、弁護人だけではありません。市民の支援であり、報道による検証であり、社会の目であります。
だからこそ、目的外使用として禁止される行為は、具体的かつ限定的に明示されるべきです。再審請求のための正当な検証活動まで萎縮させてはなりません。
我が党は、違反行為を具体的に限定列挙することを提案しました。しかし、政府からは見直しの方向性すら示されず、委員会修正でも、施行後五年ごとの見直し対象として付則に例示されるにとどまりました。
五年後への先送りでは、目の前で救済を待つ請求人を救うことはできません。
以上三点、すなわち、職権による証拠開示が制度化されていないこと、
検察官抗告の制限に実効性がないこと、
目的外使用禁止規定が正当な検証活動を萎縮させかねないこと。
これらが、本法律案に反対する主な理由であります。
国民民主党は、再審開始の決定をした裁判所が、一定の要件の下、職権で、検察官に対し、証拠の再審請求者等への開示を命ずることができる制度を盛り込んだ修正案を提出しました。
しかし、残念ながら否決されました。
一方、自民党、日本維新の会、参政党から提示された修正案は、現行の任意の証拠開示の勧告が適切に行われる旨を確認的に記したにとどまり、実質的には何の修正にもなっておりません。
法律に新たに裁判所による証拠提出命令の規定を設けるのであれば、検察官が事実上拒み得る任意の勧告では到底足りません。冤罪救済のためには、裁判所が必要な証拠の開示を命じることができる、実効ある制度が必要です。
議場の皆様。
再審法改正の必要性そのものについて、本院に大きな異論はないものと承知しております。
冤罪を生まないこと。
そして、ひとたび冤罪に気づいたならば、一日も早くこれを正すこと。
それは、党派を超えて、立法府全体に課せられた責務であります。
狭山事件の石川一雄さんは、仮出獄の後もなお「見えない手錠」をかけられたままだと訴え続け、再審の扉が開かれることのないまま、昨年三月、八十六歳で亡くなられました。
救済を待つ間に、人生が尽きてしまう。
救済を待つ間に、命が尽きてしまう。
この不正義を、これ以上繰り返させてはなりません。
私たち国民民主党は、立法府の責務として、二度と冤罪を生み出さず、冤罪に苦しむ人を一日も早く救うための真の再審法改正に、引き続き全力で取り組むことをお誓い申し上げ、私の討論といたします。
御清聴ありがとうございました。
井戸まさえ国対副委員長(衆議院議員/東京4区)は16日、国民民主党を代表し、衆議院本会議で議題となった刑事訴訟法改正案に対する質疑を行った。質疑の全文は以下のとおり。
刑事訴訟法の一部を改正する法律案 反対討論
令和8年6月16日
井戸まさえ
国民民主党・無所属クラブの井戸まさえです。
私は、会派を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、委員会修正を含め、反対の立場から討論を行います。
「再審法はただ改まればいいのではない。今まさに苦しんでいる人が救われてなんぼです。」
これは、福井女子中学生殺害事件で再審無罪となった前川彰司さんの言葉です。
この言葉を基準に問うならば、本法律案は、残念ながら「今まさに苦しんでいる人」を救うに足るものではありません。
今回の再審制度の見直しは、本来、過去への深い反省の上に始まったはずです。
袴田巖さんは、逮捕から再審無罪の確定まで、実に五十八年もの歳月を奪われました。再審開始の決定が出てから無罪が確定するまでだけでも、十年を要しました。人生の大半を死刑囚として過ごすことを強いられた、その歳月の重みこそが、本改正の原点です。
二度と同じ過ちを繰り返さない。
冤罪に苦しむ人を一日も早く救う。
そのためにこそ、再審法の改正が求められてきたのです。
現行の刑事訴訟法において、再審に関する規定はわずか十九条にすぎません。手続の多くは裁判所の裁量と運用に委ねられ、どの裁判体に当たるかによって結果が左右される、いわゆる「再審格差」が長年指摘されてきました。
我が党は、この国会を、七十八年余り手つかずであった再審のルールを改める歴史的な機会とすべく、一貫して建設的な議論に臨んでまいりました。
再審手続の法制化、そして検察官抗告を制限する方向性は、確かに一歩であります。しかし、その一歩は、冤罪に苦しむ方々を、迅速に、そして確実に救済し得る水準には達しておりません。
だからこそ、私たちは本法律案に賛成することはできません。
以下、反対の理由を申し述べます。
第一の、そして最大の理由は、裁判所の職権による証拠開示の制度化が見送られたことです。
これまでの再審無罪事件の多くは、検察官が保有していた証拠が開示されたことによって、大きく動いてまいりました。
福井事件では、裁判所が証拠開示に向けた強い姿勢を示したことを契機に、二百八十七点もの新証拠が提出されました。その中に、無罪を決定づける重要な証拠が含まれていたのです。
裁判所が主体的に動けば、証拠は出てくる。
そして、その証拠の中にこそ、無実を明らかにする手がかりが眠っているのです。
しかし、政府案の証拠提出命令は、再審請求の理由に関連すると認められる証拠に限定されています。請求人は、そもそもどのような証拠が存在するのかを知らされないまま、その証拠の関連性を主張しなければなりません。
これは、あまりにも高い壁です。
再審請求者にとって必要なのは、存在を知らない証拠について関連性を説明せよという制度ではありません。原判決の証明力を判断するために重要な証拠について、裁判所が職権で、幅広く、直接開示を命じることができる制度です。
冤罪救済の鍵は、証拠開示にあります。
この核心部分が制度化されなかったことは、本法律案の重大な欠陥です。
第二の理由は、検察官抗告の制限が、実効性を欠いていることです。
本法律案は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを原則禁止するとしています。しかし、その例外を基礎づける「十分な根拠」の有無を判断するのは、ほかならぬ検察官自身です。
当事者の一方である検察官が、自らの不服申立ての可否を自ら判断する。これでは、原則と例外が容易に逆転しかねません。審議を通じて、この制度上の抜け穴が明らかになりました。
また、十分な根拠を欠く検察官抗告によって再審開始や無罪判決の確定が遅れ、最終的に国家賠償責任が認められたとしても、その負担を負うのは国、すなわち国民です。抗告を行った検察庁や検察官自身に、反省や再発防止を促す仕組みにはなっておりません。
これでは、不当な抗告を抑止することはできません。
袴田事件では、検察官の不服申立てによって審理が高裁、最高裁を往復し、無罪確定までに十年が費やされました。
大崎事件の原口アヤ子さんは、地裁、高裁で三度にわたり再審開始の決定を得ながら、そのたびに検察官の不服申立てを受けた上級審で取り消されました。昨日、九十九歳を迎えられた今もなお、再審を待ち続けておられます。
救済を待つ請求人にとって、一年、一月の遅れは、命に関わります。
検察官抗告の制限を真に実効あるものにしなければ、この改正の意義そのものが損なわれてしまいます。
第三の理由は、新たに設けられた開示証拠の目的外使用禁止規定です。
被害者の名誉やプライバシーが保護されるべきことは当然です。証拠が無制限に拡散されたり、再審とは無関係に利用されたりすることを防ぐ必要があることも理解します。
しかし、問題は、その線引きがあまりにも不明確であり、正当な弁護活動、支援活動、報道による検証まで萎縮させるおそれがあることです。
袴田巖さんの姉、ひで子さんは、「支援者も見られない、マスコミも見られない。これでは助けられる人も助けられない」と、涙ながらに訴えられました。
冤罪を明るみに出してきたのは、弁護人だけではありません。市民の支援であり、報道による検証であり、社会の目であります。
だからこそ、目的外使用として禁止される行為は、具体的かつ限定的に明示されるべきです。再審請求のための正当な検証活動まで萎縮させてはなりません。
我が党は、違反行為を具体的に限定列挙することを提案しました。しかし、政府からは見直しの方向性すら示されず、委員会修正でも、施行後五年ごとの見直し対象として付則に例示されるにとどまりました。
五年後への先送りでは、目の前で救済を待つ請求人を救うことはできません。
以上三点、すなわち、職権による証拠開示が制度化されていないこと、
検察官抗告の制限に実効性がないこと、
目的外使用禁止規定が正当な検証活動を萎縮させかねないこと。
これらが、本法律案に反対する主な理由であります。
国民民主党は、再審開始の決定をした裁判所が、一定の要件の下、職権で、検察官に対し、証拠の再審請求者等への開示を命ずることができる制度を盛り込んだ修正案を提出しました。
しかし、残念ながら否決されました。
一方、自民党、日本維新の会、参政党から提示された修正案は、現行の任意の証拠開示の勧告が適切に行われる旨を確認的に記したにとどまり、実質的には何の修正にもなっておりません。
法律に新たに裁判所による証拠提出命令の規定を設けるのであれば、検察官が事実上拒み得る任意の勧告では到底足りません。冤罪救済のためには、裁判所が必要な証拠の開示を命じることができる、実効ある制度が必要です。
議場の皆様。
再審法改正の必要性そのものについて、本院に大きな異論はないものと承知しております。
冤罪を生まないこと。
そして、ひとたび冤罪に気づいたならば、一日も早くこれを正すこと。
それは、党派を超えて、立法府全体に課せられた責務であります。
狭山事件の石川一雄さんは、仮出獄の後もなお「見えない手錠」をかけられたままだと訴え続け、再審の扉が開かれることのないまま、昨年三月、八十六歳で亡くなられました。
救済を待つ間に、人生が尽きてしまう。
救済を待つ間に、命が尽きてしまう。
この不正義を、これ以上繰り返させてはなりません。
私たち国民民主党は、立法府の責務として、二度と冤罪を生み出さず、冤罪に苦しむ人を一日も早く救うための真の再審法改正に、引き続き全力で取り組むことをお誓い申し上げ、私の討論といたします。
御清聴ありがとうございました。