小林さやか国対副委員長(参議院議員/千葉県)は17日、国民民主党を代表し、参議院本会議で議題となった刑事訴訟法改正案に対する反対討論を行った。討論の全文は以下のとおり。
令和8年7月17日
参議院本会議(令和8年7月17日)
刑事訴訟法の一部を改正する法律案
国民民主党・新緑風会 小林さやか
国民民主党・新緑風会の小林さやかです。
私は、会派を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法の一部を改正する法律案に反対の立場から討論を行います。
【初めに】
今回の再審法改正の目的。それは、無辜の人を罰することはあってはならず、誤判からの速やかな救済のために必要な手続きを、確実に制度として保障するということです。その点において、与野党の立場を超えて一致し、本日まで議論を重ねて参りました。
近時、相次いだ再審無罪事件において、共通している最も重要な課題は、誤判を是正するため必要な証拠にたどり着けるかどうかが、運用に任されていたということです。
すなわち、たまたま当たった裁判官や検察官の善意に委ねられていました。
しかし人は、誤ります。
ドイツの政治哲学者、ハンナ・アーレントは、個人として善良な人も、組織の中で思考停止状態になり、特段悪意なく重大な不正に加担しうると指摘しました。
虚栄心、組織の理論、様々な事情で、個人が持つ倫理観を超えることが時にあり得るのです。
だからこそ、長年、運用に委ねられてきた再審請求手続を、78年の年月を経て法定化しようとしたその方向性を評価し、国民民主党は「対決より解決」の立場から現実的な修正の提案を重ねてまいりました。
しかし、それでもなお、どうしても譲ることのできない課題が大きく二点残され、本法案には反対せざるを得ません。以下、その理由を述べます。
【証拠開示】
第一は、議論の原点となった、肝心の「幅広い証拠開示」が結局、運用に任されたことです。
再審請求人は、新証拠を示さなければ再審開始への扉を開くことができません。しかし、新証拠は通常審で提出されなかった証拠の中にあるかもしれないにも関わらず、どんな証拠が保管されているのか、その全体像すら知ることができません。このジレンマの構造こそが、近時の再審事件が突き付けた最大の教訓だったはずです。
「証拠の提出命令」が法定化されたことは確かに前進です。しかしその対象は「再審請求理由に関連する証拠」に限定されています。一方で、関連性を問わない幅広い証拠の開示は、制度化されず、これまで運用で行われてきた裁判官による勧告、つまり任意のままとなってしまいました。
この議論の最中、7月10日になって名古屋高等検察庁からようやく福井女子中学生殺人事件の調査結果の報告書が発表されました。この中で、通常審だけでなく、第一次再審請求審においてさえなお、客観的証拠との食い違いを複数の検察官が認識していたにも関わらず、新しい捜査報告書を敢えて提出せず、十分な是正につながらなかった経過が明らかになりました。
これはもはや、個人の検察官の資質だけの問題ではなく、組織も誤り得るからこそ、その誤りを制度で正す仕組みが必要だという教訓です。
それは過去の話だけでありません。今この議論をしている最中でさえ、検察官を巡る不適切な事案が相次ぎ、検察そのものの信頼性が揺らいでいます。
国民民主党は、証拠提出命令だけでなく、再審請求理由との関連性を問わない幅広い証拠を、職権をもって、命令で開示させる制度の創設が必要だと訴え続けてきました。
しかし残念ながら受け入れられませんでした。
【目的外使用禁止規定】
そして、第二の反対理由は、新たに設けられる証拠の目的外使用の一律禁止規定です。
政府は、この規定について、犯罪被害者や関係者のプライバシー、名誉を保護するために必要な制度であると説明します。
その問題意識そのものを否定するものではありません。
確かに、性犯罪などにおいて、被害者の尊厳を踏みにじるような写真や動画などを決して晒されたくないというお気持ちは痛いほどわかります。
しかし私はジャーナリストとしてこれまで取材をしてきて、捜査機関が時にプライバシー保護を盾に、自分たちにとって都合の悪い情報や、本来検証されるべき情報まで社会から遠ざける場面を幾度となく見てきました。
その結果、被害は見えにくくなり、再発防止や制度整備を求め、世に訴えたいという被害者の思いさえも阻害してきました。
現に、福井女子中学生殺人事件においては、被害者のご家族ご本人が、参議院法務委員会の参考人質疑の中で、証拠を広く社会に伝え真犯人を探すべきと訴えたのです。
政府は、再審請求の準備のためであれば、証拠の目的外使用にはあたらないと説明します。また証拠の謄写そのものではなく、概要であれば問題ないなどともいいます。
しかし、では、何が「再審請求の準備」にあたるのか、どこまで加工すれば謄写そのものではないと認められるのか、その判断基準は曖昧で、個別具体的に判断するとしか説明しません。ならば、一律に罰則付きの禁止規定を設けるのではなく、最初からすべて個別判断にすればよいではないのでしょうか。
我が国には、少年事件の記録閲覧・謄写制度や、犯罪被害者保護法に基づく訴訟記録の閲覧・謄写制度など、裁判所が事件ごとに利益衡量する制度が既に存在します。
被害者保護が重要だからこそ、一律禁止ではなく個別判断をしているのです。なぜ再審では、それができないのでしょうか。
これまで、再審無罪判決となった事件では、弁護人だけではなく、研究者、報道機関、市民、支援者など、多くの人々の知見によって、真実へ近づいてきました。
一律の目的外使用禁止は、その力を必要以上に萎縮させるおそれがあります。
通常審においても、証拠を報道機関に提供した弁護人に対し、検察が、懲戒請求をかけた事案があります。また、結審した刑事事件に付随する国家賠償訴訟で同じ証拠を使う場合でさえも、「報道機関に提供しない」ことを誓約させるといった運用がなされています。
政府は、今回の規定で委縮は生じないといい切りますが、こうした行為ばかりしていてどうして信じられるでしょうか。
また、政府は、通常審と同種の禁止規定である、とも説明します。
しかし、証拠開示や証拠の一覧リストなど、通常審にある他の規定については、「通常審と再審は手続き構造が違う」としています。その一方で、証拠の目的外使用禁止規定に関してだけ、これまで禁止規定がなくても何も問題がなく立法事実がないにも関わらず、都合よく通常審をコピー&ペーストするかのように援用していて、その説明に整合性がとれません。
そもそも政府案では、衆議院で修正された附則において、この目的外使用の規定を5年ごとの見直しの対象として特出しで言及しています。これこそが今すでに問題があることの証左です。だったら5年後を待たずになぜ今見直さないのでしょうか。
犯罪被害者の保護と冤罪被害者の救済は対立するものではありません。どちらの声をも奪いかねない、証拠の目的外使用の罰則付き一律禁止規定には明確に反対します。
【結び】
証拠は、誰のものでしょうか。検察官のものでも、弁護人のものでもありません。
真実を明らかにし、無辜を救済し、司法への信頼を守るための公益のためにあるものです。
だからこそ、その証拠へのアクセスは最大限保障され、その利用も、守るべき利益との均衡の中で判断される制度でなければなりません。
人は誤ります。
だから制度があります。
私たち国民民主党は、今の刑事訴訟法が形作られて初めて再審に関する具体的手続きが明文規定されること自体は歓迎しています。
その第一歩が、長年にわたって、そして今も冤罪に苦しむ人を救うことに繋がるのか。そして今後も冤罪が発生しないようになっているのか。
5年後ではなく、今日この日から、立法府の責任として、不断の検証と見直しに取り組むことを誓い、私の反対討論といたします。
(3067文字)
小林さやか国対副委員長(参議院議員/千葉県)は17日、国民民主党を代表し、参議院本会議で議題となった刑事訴訟法改正案に対する反対討論を行った。討論の全文は以下のとおり。
令和8年7月17日
参議院本会議(令和8年7月17日)
刑事訴訟法の一部を改正する法律案
国民民主党・新緑風会 小林さやか
国民民主党・新緑風会の小林さやかです。
私は、会派を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法の一部を改正する法律案に反対の立場から討論を行います。
【初めに】
今回の再審法改正の目的。それは、無辜の人を罰することはあってはならず、誤判からの速やかな救済のために必要な手続きを、確実に制度として保障するということです。その点において、与野党の立場を超えて一致し、本日まで議論を重ねて参りました。
近時、相次いだ再審無罪事件において、共通している最も重要な課題は、誤判を是正するため必要な証拠にたどり着けるかどうかが、運用に任されていたということです。
すなわち、たまたま当たった裁判官や検察官の善意に委ねられていました。
しかし人は、誤ります。
ドイツの政治哲学者、ハンナ・アーレントは、個人として善良な人も、組織の中で思考停止状態になり、特段悪意なく重大な不正に加担しうると指摘しました。
虚栄心、組織の理論、様々な事情で、個人が持つ倫理観を超えることが時にあり得るのです。
だからこそ、長年、運用に委ねられてきた再審請求手続を、78年の年月を経て法定化しようとしたその方向性を評価し、国民民主党は「対決より解決」の立場から現実的な修正の提案を重ねてまいりました。
しかし、それでもなお、どうしても譲ることのできない課題が大きく二点残され、本法案には反対せざるを得ません。以下、その理由を述べます。
【証拠開示】
第一は、議論の原点となった、肝心の「幅広い証拠開示」が結局、運用に任されたことです。
再審請求人は、新証拠を示さなければ再審開始への扉を開くことができません。しかし、新証拠は通常審で提出されなかった証拠の中にあるかもしれないにも関わらず、どんな証拠が保管されているのか、その全体像すら知ることができません。このジレンマの構造こそが、近時の再審事件が突き付けた最大の教訓だったはずです。
「証拠の提出命令」が法定化されたことは確かに前進です。しかしその対象は「再審請求理由に関連する証拠」に限定されています。一方で、関連性を問わない幅広い証拠の開示は、制度化されず、これまで運用で行われてきた裁判官による勧告、つまり任意のままとなってしまいました。
この議論の最中、7月10日になって名古屋高等検察庁からようやく福井女子中学生殺人事件の調査結果の報告書が発表されました。この中で、通常審だけでなく、第一次再審請求審においてさえなお、客観的証拠との食い違いを複数の検察官が認識していたにも関わらず、新しい捜査報告書を敢えて提出せず、十分な是正につながらなかった経過が明らかになりました。
これはもはや、個人の検察官の資質だけの問題ではなく、組織も誤り得るからこそ、その誤りを制度で正す仕組みが必要だという教訓です。
それは過去の話だけでありません。今この議論をしている最中でさえ、検察官を巡る不適切な事案が相次ぎ、検察そのものの信頼性が揺らいでいます。
国民民主党は、証拠提出命令だけでなく、再審請求理由との関連性を問わない幅広い証拠を、職権をもって、命令で開示させる制度の創設が必要だと訴え続けてきました。
しかし残念ながら受け入れられませんでした。
【目的外使用禁止規定】
そして、第二の反対理由は、新たに設けられる証拠の目的外使用の一律禁止規定です。
政府は、この規定について、犯罪被害者や関係者のプライバシー、名誉を保護するために必要な制度であると説明します。
その問題意識そのものを否定するものではありません。
確かに、性犯罪などにおいて、被害者の尊厳を踏みにじるような写真や動画などを決して晒されたくないというお気持ちは痛いほどわかります。
しかし私はジャーナリストとしてこれまで取材をしてきて、捜査機関が時にプライバシー保護を盾に、自分たちにとって都合の悪い情報や、本来検証されるべき情報まで社会から遠ざける場面を幾度となく見てきました。
その結果、被害は見えにくくなり、再発防止や制度整備を求め、世に訴えたいという被害者の思いさえも阻害してきました。
現に、福井女子中学生殺人事件においては、被害者のご家族ご本人が、参議院法務委員会の参考人質疑の中で、証拠を広く社会に伝え真犯人を探すべきと訴えたのです。
政府は、再審請求の準備のためであれば、証拠の目的外使用にはあたらないと説明します。また証拠の謄写そのものではなく、概要であれば問題ないなどともいいます。
しかし、では、何が「再審請求の準備」にあたるのか、どこまで加工すれば謄写そのものではないと認められるのか、その判断基準は曖昧で、個別具体的に判断するとしか説明しません。ならば、一律に罰則付きの禁止規定を設けるのではなく、最初からすべて個別判断にすればよいではないのでしょうか。
我が国には、少年事件の記録閲覧・謄写制度や、犯罪被害者保護法に基づく訴訟記録の閲覧・謄写制度など、裁判所が事件ごとに利益衡量する制度が既に存在します。
被害者保護が重要だからこそ、一律禁止ではなく個別判断をしているのです。なぜ再審では、それができないのでしょうか。
これまで、再審無罪判決となった事件では、弁護人だけではなく、研究者、報道機関、市民、支援者など、多くの人々の知見によって、真実へ近づいてきました。
一律の目的外使用禁止は、その力を必要以上に萎縮させるおそれがあります。
通常審においても、証拠を報道機関に提供した弁護人に対し、検察が、懲戒請求をかけた事案があります。また、結審した刑事事件に付随する国家賠償訴訟で同じ証拠を使う場合でさえも、「報道機関に提供しない」ことを誓約させるといった運用がなされています。
政府は、今回の規定で委縮は生じないといい切りますが、こうした行為ばかりしていてどうして信じられるでしょうか。
また、政府は、通常審と同種の禁止規定である、とも説明します。
しかし、証拠開示や証拠の一覧リストなど、通常審にある他の規定については、「通常審と再審は手続き構造が違う」としています。その一方で、証拠の目的外使用禁止規定に関してだけ、これまで禁止規定がなくても何も問題がなく立法事実がないにも関わらず、都合よく通常審をコピー&ペーストするかのように援用していて、その説明に整合性がとれません。
そもそも政府案では、衆議院で修正された附則において、この目的外使用の規定を5年ごとの見直しの対象として特出しで言及しています。これこそが今すでに問題があることの証左です。だったら5年後を待たずになぜ今見直さないのでしょうか。
犯罪被害者の保護と冤罪被害者の救済は対立するものではありません。どちらの声をも奪いかねない、証拠の目的外使用の罰則付き一律禁止規定には明確に反対します。
【結び】
証拠は、誰のものでしょうか。検察官のものでも、弁護人のものでもありません。
真実を明らかにし、無辜を救済し、司法への信頼を守るための公益のためにあるものです。
だからこそ、その証拠へのアクセスは最大限保障され、その利用も、守るべき利益との均衡の中で判断される制度でなければなりません。
人は誤ります。
だから制度があります。
私たち国民民主党は、今の刑事訴訟法が形作られて初めて再審に関する具体的手続きが明文規定されること自体は歓迎しています。
その第一歩が、長年にわたって、そして今も冤罪に苦しむ人を救うことに繋がるのか。そして今後も冤罪が発生しないようになっているのか。
5年後ではなく、今日この日から、立法府の責任として、不断の検証と見直しに取り組むことを誓い、私の反対討論といたします。
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