フィリピンの皆様、こんにちは。日本国総理大臣の石破茂です。この度、フィリピンを訪問できることを大変嬉しく思います。
日本とフィリピンは、歴史的に深い絆で結ばれています。16世紀にはすでに交易が行われ、マニラには日本人町が形成されていました。また、第二次大戦前にも、多くの日本人が主にバギオやダバオに移住し、地域社会を形作ってきました。両国には困難な時代もありましたが、1953年に日本人戦犯に恩赦を与えたキリノ大統領は、「自分の子供や国民に、我々の友となり、我が国に末永く恩恵をもたらすであろう日本人に対する憎悪の念を残さないために、これを行うのである。」との声明を発出しました。この寛容の精神は、両国国交正常化に大きく寄与し、その後両国は信頼と友情を築き上げてきました。未来志向で共に歩んできた両国の関係は、今や平和と繁栄を共に追求するものであり、私たちの協力は多岐にわたっています。また、両国は、来年に国交正常化70周年という節目を迎えます。
日本とフィリピンは、基本的な価値や戦略的利益によって結ばれた海洋国家として、二国間関係にとどまらず、地域・国際社会の諸課題についても協力する戦略的パートナーです。分断や対立が深刻化する現在の国際社会において、日本とフィリピンの協力は、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、これまで以上に重要になっています。このような認識のもと、今回の訪問を通じ、特別な友情の絆で結ばれた日本とフィリピンの関係を更に発展させていきたいと考えています。
近年、マルコス大統領のリーダーシップの下で日比二国間及び米国を含む多国間の安全保障分野の協力が急速に進展しています。本年1月に日米比首脳テレビ会議を実施し、また、同月に岩屋外務大臣が、2月に中谷防衛大臣がフィリピンを訪問し、両国間で緊密に意思疎通を続けています。
日・フィリピン部隊間協力円滑化協定締結に向けた両国の取組に加え、我が国はフィリピンとの安全保障・海洋協力を重層的に進めています。例えば、我が国初の完成装備品移転としての警戒管制レーダーの納入、OSAによる沿岸監視レーダーの供与、海上保安に係る能力向上支援、フィリピンを含む多国間での海上協同活動を始めとした各種の共同訓練、防衛交流、ODAによる巡視船供与のような海上法執行能力向上支援が挙げられます。今後もこうした取組を強化していきます。
経済面での協力も様々な分野で着実に進んでいます。日本はフィリピンへの最大の援助供与国であり、南北通勤鉄道事業のような大規模交通インフラやミンダナオにおける社会経済支援により、日本の強みを活かしながら、フィリピンの更なる経済発展や格差是正に寄与してきました。また、私がライフワークとする防災分野では、治水や早期警戒システムの整備を通じて、日本の経験・知見も踏まえて協力を推進しています。さらに、持続可能な開発や強靱性強化を目指し、気候変動やエネルギー分野での協力も推進しています。フィリピンには約1600社の日系企業が進出し、近年では、医療分野や教育分野においても、スタートアップ企業がフィリピンの社会課題に挑んでいます。今後も、日本の強みを活かし、フィリピンの社会・経済開発を支援し、フィリピンの上位中所得国入りを力強く後押ししていきます。
日本とフィリピンは強固な関係を構築していますが、その基礎は文化・人的交流です。フィリピンからの訪日者数は、2024年1年間で約82万人となり、過去最大となりました。日本在住のフィリピンの方は約34万人となり、看護、介護、建設、造船、農業といった多様な場で活躍し、日本の経済と暮らしを支えています。スポーツの分野では、両国にルーツを有する多くの選手が活躍し、スポーツ交流も盛んです。長年、日本でトレーニングを実施している、体操選手のカルロス・ユーロ氏が、パリ2024オリンピックで金メダルを取った際、両国が共に喜び合ったことは記憶に新しいところです。更に、フィリピンでは、日本のアニメや漫画が人気であり、フィリピン人俳優による日本のアニメの実写化にみられるように、文化を通じた交流も進んでいます。今後も、文化・人的交流を通じ、相互理解を深め、両国の友好関係を促進してきます。
地域の安全保障環境が厳しさを増すなか、日・フィリピン両国が共に同盟関係にある米国との関係は一層重要となっています。海洋安全保障、経済的威圧への対応、重要インフラ強靭化といった分野で3か国の協力が大幅かつ具体的に進展しています。法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、日米比協力のモメンタムを継続・強化し、3か国で連携して取り組んでいきます。
4月13日に大阪・関西万博が開幕しました。「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマの下、フィリピンには「自然、文化、共同体―よりよい未来をともに織りなす」というテーマでパビリオンを出展いただいています。万博を契機として両国の人的交流や経済的な交流がより一層強固なものになること、また、その機会に日本の地方各地を訪問され、その魅力に触れていただくことを期待しています。
最後に、フィリピン国民の皆様の御多幸と、両国の友好関係が一層発展していくことを心より願っています。